カッソーロ

家族と平和をこよなく愛する平凡な男の日記。だいたい、言いたいことを書いてます。

痩せ我慢した日

歯医者。それは恐怖の象徴である。そして、そのイメージを裏切られたことはほぼない。

診察当日は決まって、自宅の洗面台において懺悔が始まる。まるでその日までの怠慢を帳消しするかのように鏡の前に立ち入念に歯を磨く。しかし、憂鬱な気持ちは晴れない。残された最後の悪あがきといえば、鼻毛チェックくらいだ。

晴れない気持ちのまま、予約時間の数分前に処刑場に到着する。受付に診察券を預ければ、ほどなく処刑台まで案内される。緊張を隠して指定席へ。着席すると、チラリと横目に映る歪な先端をした器具の隊列が僕の恐怖を増幅させる。

これらのうち、どの凶器で調理されているのか、タオルで視界を遮られるため分からない。いや、分かったところで痛みがなくなることはない。

白衣の執行人からの『痛かったら、言ってくださいねー』という社交辞令の合図とともに始まる試練。はたして、この社交辞令どおり痛さを訴えている人はどれほどいるのだろうか。一度、全国民を対象にアンケートを取ってもらいたい。そもそも、口にものを突っ込まれた状態で何と言葉を発するのが正解なのだろうか。仮に『ふがふふふっ』と情けない声をあげれば、痛みをなくす対処をとってくれるのだろうか。

途中に挟むうがいと称した小休憩のため体を起こされる度に逃げ出したくなる。これで終わりならば、どれほど幸せか。しかし、期待も虚しく、チェアのリクライニングはゆっくりと下がっていく。再び、視界は遮られ、耳元では甲高い機械音が鳴り響く。

数十分に及ぶ痩せ我慢の結果、僕の手のひらは洪水状態だ。確実にこれだけで何カロリーか消費されているだろう。解放された時はまるで空を飛ぶことを許された鳥籠の小鳥のような気分になる。僕はスリッパを履きながら思う。性懲りもなくまた、誓いを立てる。

歯を大切にしよう!